“またね。”
教室へ向かうと、ちょうど休み時間だったため、廊下が騒がしい。

長い道のりをトボトボ歩いて左に曲がる。

「菜摘!」

視界に入ったのは亮介の姿。

友達と離れて菜摘の元へ駆け寄る。

「また遅刻かよ」

ははっと笑う姿を見て、少し罪悪感が湧いた。



だって─

たった今、『彼氏がいなかったら』って

『大ちゃんの手を取りたい』って、そう思ってしまったから。

最低なことをしてるとわかっているからこそ、罪悪感はどんどん増えていく。



「あ…うん。まあね」

うまく話せない。

亮介の目を見れない。

「ちゃんとこいよ。ダブるぞ」

「こっちの台詞です」

亮介も遅刻と早退の常習犯。

そういえば朝会うことなんて滅多にない。

どうして今日に限っているのさ─

「俺、今日も昼で帰るから」

最近亮介は、こうやって菜摘に報告をする。

まあ早退してから何をしてるのかは全く知らないけど。

「わかったよ」

相変わらず目を見れなくて、必死に笑顔を作る。

チャイムと同時に教室へ入っても

『バレなくてよかった』

『ごめんね』

頭の中はそれでいっぱい。



『何』に対して『ごめん』なのか

自分でももうわからなかった。
< 258 / 407 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop