“またね。”
「鼻水つけんなよ」

「…もうついてるかも」

「殺すぞバカ」

いつの間にか止まった涙。

少し離れた大ちゃんは、やっぱり優しく微笑んでいた。

薄暗い中でもわかるくらいの眩しい笑顔。

「寒いね。車行こっか」

立ち上がり、菜摘の頭を軽く撫でる。

また泣きそうになったけど、グッと堪えた。

「うん。…大ちゃん」

「ん?」

─『ありがとう』─

「なんでもない」

「なんだよそれ」

『ありがとう』って言うの、こんなに照れ臭かったっけ。

言えない言葉の代わりに

どちらからともなく、手を繋いだ。



この前は、あんなにためらっていたのに

罪悪感なんて、もうなかった。



「お前の手、超冷たいじゃん。ずっと外にいたの?」

「大ちゃんの手だって冷たいよ」

嘘だよ。

すごく温かい。

「もっと早くくればよかったね。ごめんね」

ううん、それは違うよ。

すぐにきてくれて、本当に嬉しかった。

大ちゃんに救われたんだよ。

「ううん」

本当に
本当に

ありがとう。


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