“またね。”
「お前、何してんの?」

声の主は、壁にもたれ掛かりながら眉間にしわを寄せている。

『お前』って…

亮介に、初めて言われた。

「何してんのはこっちの台詞。浮気してたんだね。菜摘バカだから気付かなかった」

「はあ?浮気なんかしてねぇよ。携帯返せ」

まだ言い訳する気?

この状況で言い逃れができるとでも思ってるの?

「着歴もメールも見たから。浮気すんならさ、そんくらい消しとけよ」

画面を向ける。

黙り込む亮介に携帯を投げ付けた。

「…ごめん」

罰が悪そうに俯く亮介。

「ごめんじゃなくてさ。もういいから別れよ」

気持ちは落ち着いたまま。

あまりにも冷静な自分に自分で驚くくらい。

どれだけこういうシチュエーションを望んでたのか、自分でも今初めて知った。

「やだよ!別れたくない!もうしないから!」

亮介が菜摘の腕にしがみつき

『許して』と、呟いた。



その時ね─

もうダメだと思った。

菜摘が被害者になんてなれるはずがない。

レイプ紛いのことをされようが、浮気をされようが

それでも亮介を責めることなんてできないくらい、亮介を傷つけてきたんだから。
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