“またね。”
最初の頃、亮介に惹かれていたのは確かだった。

でもそれは、優しかったから。

弱ってる時に優しくしてくれたから。

どんなに鈍感な人でも気付くくらい、菜摘を好きになってくれたから。

亮介しかいないと思った。

「…ごめん。戻れない」

だって苦しいじゃない。

菜摘を見てくれないじゃない。

そのために亮介を利用した。

「亮介わかってるよね?最初からずっとわかってたよね?菜摘は…」

好きになりたいとは思ってた。

どうして亮介じゃダメだったんだろう。

どうして大ちゃんじゃなきゃダメなんだろう。

それは今でもわからなかった。



「他に好きな人がいる。亮介のこと…好きじゃなかった」



なんて最低な台詞なんだろう。

『他に好きな人ができた』でも

『もう好きじゃない』でもない。

最初から、ずっと大ちゃんが好きだった。

最初から、亮介のことは好きじゃなかった。

あまりにも自分勝手で、最低な台詞を

座り込み、脱力したように俯く亮介に吐き捨てた。



「ごめんね」



そして─

部屋をあとにした。



自分が被害者になれると思ったのに

結局、自分で言っちゃった。

優しい亮介を利用してた。

うまくいかなくなってからここまで頑なに別れなかった理由はひとつだけ。

亮介がいなくなったら、菜摘を一番においてくれる人がいなくなるから。

そしたら、大ちゃんから逃げる理由がなくなってしまうから。

自分勝手にも程がある。

< 275 / 407 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop