“またね。”
自転車を押しながら、山岸さんの元へ戻る。
「あー…そういや、さん付けしなくていいよ?敬語もいらないし。さん付けとか敬語とか、あんま慣れてないしさ」
嬉しいけど、そんなこと言われても。
『山岸』…は、さすがにないよね。
「下の名前でいいよ。呼び捨てで」
下の名前?
でも…
「下の名前知らないんだけど…なんていうの?」
俯いて言うと、山岸さんは吹き出した。
「ああ、そっかそっか。大輔だよ。呼び捨てでいいから。俺も菜摘って呼ぶし」
『大輔』っていうんだ。
ごく平凡な名前なのに、それすらもかっこよく思える。
「もう最初から菜摘って呼んでんじゃん」
「そっか」
また笑って、自転車にまたがった。
「どこ行く?乗んなよ」
『菜摘のチャリなのに』と心の中で突っ込みながら、荷台にまたがる。
名前で呼び合うことがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
もっと知りたい。
たくさん話したい。