“またね。”

自転車を押しながら、山岸さんの元へ戻る。

「あー…そういや、さん付けしなくていいよ?敬語もいらないし。さん付けとか敬語とか、あんま慣れてないしさ」

嬉しいけど、そんなこと言われても。

『山岸』…は、さすがにないよね。

「下の名前でいいよ。呼び捨てで」

下の名前?

でも…

「下の名前知らないんだけど…なんていうの?」

俯いて言うと、山岸さんは吹き出した。

「ああ、そっかそっか。大輔だよ。呼び捨てでいいから。俺も菜摘って呼ぶし」

『大輔』っていうんだ。

ごく平凡な名前なのに、それすらもかっこよく思える。

「もう最初から菜摘って呼んでんじゃん」

「そっか」

また笑って、自転車にまたがった。

「どこ行く?乗んなよ」

『菜摘のチャリなのに』と心の中で突っ込みながら、荷台にまたがる。

名前で呼び合うことがこんなに嬉しいなんて知らなかった。



もっと知りたい。

たくさん話したい。


< 29 / 407 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop