“またね。”
「俺さあ、好きな子いるんだよね」

「へっ?え…はっ!?」

なんだって菜摘にそんなことを言うのか全くわからない。

ありえないくらい声が裏返った菜摘を、駿くんが容赦なく笑い飛ばす。

「えっと…どれくらい?」

「わっかんね。気付いたら好きだった。でも1年くらいかな」

1年間も好きなんだ。

駿くんには彼女がいない。

ということは、ずっとその子だけを見てきたのかな。

純粋にすごいと思った。

だって菜摘は─



「…告ったりしないの?」

右を向き、目を合わせて言うと、駿くんは少し困ったように笑った。

「しねぇよ。その子、他に好きな奴いるから」

そうなんだ…。

1年間、ずっと?

「でも告っちゃえばいいじゃん。うまくいくかもしんないし…」

「それはないな。男として見られてないだろうし。それにその子も、そいつのことずっと好きなんだよ。たぶん一生叶わない」

苦く笑う駿くんを見て、自分はなんて無神経なんだろうと思った。

駿くんはきっとたくさん悩んでいるのに、自分の意見を押し付けて。

『一生叶わない』

それは諦めでもなく、その子を1年間見てきた結果だと思った。

その子を、ちゃんと見てるから。

それなのに。



でも─

駿くんと自分が、少しだけ重なって見えたんだ。
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