“またね。”
─嘘だ。

そんなの嘘。

だって大ちゃんは─

「…大ちゃんは…彼女と付き合ったじゃん」

大ちゃんは1度だって振り向いてくれなかった。



「あいつさ。真理恵に告られた時、1回断ってるよ。気になる子がいる、って」



─…え?

どういうこと?



「そん時、修学旅行中でさ。俺山岸と同じ部屋だったし、隣にいたから」



頭が混乱する。

駿くんはやっぱり前を見ていた。

「真理恵が『それでもいい』って言ったんだよ」

だからって『気になる子』が菜摘だとは限らないじゃない。

─そう思ってはいるのに、嬉しかった。

大ちゃんは菜摘のことを気にしてくれてたの?

一瞬でも両想いだった─?



「あいつさ。いっつも余裕ぶってんのに、菜摘にだけは熱くなるよ」

一瞬ためらったように見えたけど、駿くんは続けた。

「体育祭ん時もクリスマスん時も、さっきも。菜摘になんかあったら、あいつ飛んでくじゃん」

駿くんから目が離せない。

目に溜まった涙を堪えることに必死だった。



「あいつが唯一必死になんのは、菜摘のことだけ」
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