“またね。”
「うん。願書の写真撮る時に黒スプレーする」
「バカ。確かに名前書けば入れるとこだけどさあ。なっつにはあんな高校似合わないよ」
菜摘が行こうとしてる私立高校は、ヤンキーとギャルの溜まり場だ。悲惨な成績や内申のおかげで行ける高校がない人や、受験に失敗した人々が集まる場所。
確かに菜摘はヤンキーでもギャルでもないけれど、“女子高生”になれるならなんでもいい。勉強が嫌いな菜摘にとって、その高校はもってこいだった。
「なっつはやればできる子なんだから。気持ちの問題じゃん」
気持ちの問題、ね。
丁寧にフルーツ系のリップを塗る伊織は、学年一の優等生だ。本当は勉強が嫌いなことも知ってるけど、夢に向かってひた向きに走る姿は尊敬する。
「…うん。まあ、気が向いたらね」
その点、菜摘はと言うと
生意気で縛られることを嫌う性格が災いしてか、学年一の問題児、なんて言われる始末。
かといって、別に不良でもなんでもない。ここは田舎の平凡な中学校で、それなりにある校則を守ってないだけ。
好きな格好をしてたら怒られて、それでも直さない菜摘を先生たちは“問題児”だと言う。それだけの話だ。
廊下へ出てもその話は続いた。
口うるさい伊織に反撃開始しようとしたところで、
「そうだよ。私立行くなんて話違うじゃん」
と、教室のドアの前に立っていた隆志が言った。
男にしては背が低くて可愛らしい、菜摘の幼なじみ。