“またね。”
なるべく明るい道を通り、あともう少しで家に着くという時だった。



「ねぇ、こんな夜中に1人?」



後ろから少し高めの声が聞こえた。

振り向くと、20代くらいの若い人。

見たこともない、知らない男。

「家まで送ってあげる!」

お酒の匂いを漂わせながら、煙草の煙を荒く吐いた。

もう午前2時半。

危ない。

怖い。

逃げなきゃ。

とっさにそう思った。

「家すぐそこだから、いいです」

俯き、早口で言う。

煙草の匂いは好き。

でもこういう時の煙草って余計に恐怖を増す。

なるべく目を合わさず、足早に歩き出そうとすると─



「いいじゃん。てか遊ぼうよ」

腕を掴まれ、引き寄せられた。



触らないでよ。

気持ち悪い。

「離せよ!」

男の腕を振りほどくと─

頬に鈍い痛みが走った。



再び腕を掴まれ、今度は壁に押し付けられた。



「気ぃ強くね?男ナメない方がいいよ」



そう言って笑った男の顔を

菜摘は絶対に忘れない。
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