“またね。”
「…菜摘、どした?」

走り出してしばらく経った頃、大ちゃんが静かに切り出した。

「え…」

そろそろくると思ってたんだ。

大ちゃんが聞いてこないわけがない。

「さっき。お前また『助けて』って言ったろ」

『また』

大ちゃん、クリスマスのこと覚えてたんだね。

「『なんでもない』はもうなしな。俺『言いたくないなら言わなくていい』とか言うほど優しくないからさ」

─やっぱり

大ちゃんは、菜摘のことをよくわかってる。

でもね、大ちゃんは優しいよ。

『どした?』って必ず聞くけど

少し強引に言わせようとするけど

最後はいつだって、何も聞かずに頭を撫でてくれた。

抱き締めてくれた。

菜摘は、何度も大ちゃんに救われたんだよ。



「…ごめん。あのね…」

言うのは…少し怖い。

亮介の時もそうだった。

他人にレイプされたわけじゃないのに

ただ彼氏と…少し強引なセックスをしただけなのに、どうしてこんなに怖いんだろう。

あの時は『怖い』なんて思わなかったはずなのに、自分でもわからないけど震える体を抑えながら、さっきの出来事を話した。

大ちゃんは無言で運転する。

途中─

菜摘の手を、強く握り締めながら。
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