“またね。”
話し終えると少しの沈黙。

なんだかやけに緊張しちゃって、大ちゃんを見ることができない。

先に口を開いたのはやっぱり大ちゃんだった。

「なんで夜中に女が1人で歩くんだよバカ」

沈黙ののちに聞こえたのは、いつもより低い声。

…怒ってる?

「えと…家まで近いし、大丈夫かなって…」

大ちゃんのそんな声を聞いたのは初めてだから、少し動揺する。

少しだけ目を細め、菜摘を真っ直ぐ見つめた。



「そーゆう問題じゃないだろ。菜摘は女なんだよ。気を付けろよ」




…心配してくれてるんだろうか。

心配だから怒ってくれてるの?



─『俺は男。菜摘は女』─



いつかの台詞を思い出す。

そうだ。

大ちゃんはいつだって菜摘を女の子扱いしてくれて

いつだって心配してくれていた。



赤信号で止まると、大ちゃんは菜摘を強く抱き締めた。

車の中だからちょっと変な格好になっていると思う。

でもそんなことは気にならない。

気になるのは、うるさい心臓の音が、大ちゃんに聞こえちゃわないかってことだけ。

久しぶりの温もりは、やっぱり菜摘を落ち着かせた。



「ごめんなさい…」



謝ると同時に、信号が『発進』を示す。

そっと離れて

大ちゃんは、優しく微笑んだ。
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