“またね。”
「大ちゃん、なんでわかったの?」

目印のコンビニが見え、信号を右に曲がる。

一気に街灯が減り、車の中が暗くなった。

2人を照らすのはデッキのかすかな明かりだけ。

「何が?」

「菜摘の居場所。コンビニとしか言ってなかったのに」

コンビニの名前すら言っていなかったのに、大ちゃんはすぐにきた。

迷ったなら絶対に20分じゃ着かない。

「菜摘んち覚えてた?」

「いや、うろ覚え。あそこらへんごちゃごちゃだから迷うし」

やっぱり。

忘れっぽいうえに方向音痴の大ちゃんが、1度しか通ったことのない道を覚えてるわけがない。

「じゃあなんでわかったの?」

大ちゃんが『なんでだろ』と笑う。

そして左手を伸ばし、菜摘の髪にそっと触れた。



「夢中で走ってたら、菜摘がいたんだよ。そんだけ」



─涙が…

溢れるかと思った。



「…嘘つき」

「マジだよ。愛じゃん」

「バカじゃないの」

「ひでーな、ほんとなのに。信じろよ」

信じられるわけないじゃない。

そんなの嬉しすぎて、信じたら涙を我慢できなくなる。

「…うん。ありがと」

でも─

やっぱり嬉しいから、信じたくなる。



いつだって大ちゃんは、少ないキーワードで菜摘を見つけだしてくれた。

だからこそ、今日もきてくれると思ったんだ。
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