“またね。”
「菜摘」

大ちゃんは、菜摘の頬に手を添えて

そっと─



ほんの一瞬、唇が重なった。



大ちゃんとの、ファーストキス。

抵抗はできなかった。

ううん─

しなかった。



「お前なんで泣いてんだよ。泣き虫」

添えていた手でまた頬をつねると、大ちゃんは無邪気に笑った。

「嬉しいもん。どんだけ好きだと思ってんのさ」

泣かないわけがない。

今まで生きてきた中で、この瞬間が1番幸せだと思った。

ずっとその言葉を聞きたかったんだよ…。

「知んねー。まあ昔の話はおいといてさ。菜摘、俺のこと好きなの?」

そんなの今さら聞かないでよ。

わかってるくせに。



大ちゃんは、一か八かの賭けなんか絶対にしない人。

菜摘の気持ちを知っていなければ、絶対に『愛してる』なんて言わない。



「…ずっとずっと

好きだったよ…」



拭いても拭いても止まらない涙。

嬉しくて流れる涙は

どうしてこんなに暖かいんだろう。



「死ぬほど好き─」



何度か聞いたことのある台詞。

まさにこのことだと思った。



この人のためなら死ねると

本気で思った。
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