“またね。”
大ちゃんは菜摘が好きだった?

そんな前から?

駿くんが言ってたことは本当だったの─?



「…だったら言ってくれればよかったじゃん。好きなら好きって、言ってくんなきゃわかんないよ」

少し、声が震えた。

駿くんの言葉が脳裏を駆け巡る。

「俺わかんなかったんだよ。好きとか嫌いとか」



『人を好きになったことがなかったから』

大ちゃんが付け足した一言がとても寂しい。

ただ単に、恋をしたことがない、というわけではないと思うから。



ずっと思ってた。

大ちゃんはきっと、誰にでもある『感情』がよくわからないんだ。

嬉しいとか

悲しいとか

好きとか

寂しいとか

そういう感情に、すごく鈍感なんだ。

だからいつも笑っているんだと思った。

大ちゃんの寂しさが、なんとなくわかった気がした。



「でもさ」

煙草に火をつけ、信号のない道を真っ直ぐ走る。

あの頃から変わらない、セブンスターの香り。

「植木んちでガスやった時、お前キレて怒鳴ってたじゃん。あの時、泣いてるとこ見てさ」

「うん」





「『綺麗だ』って、思ったんだ」





煙と同時に吐かれたその言葉。

『綺麗』?

菜摘が─?


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