“またね。”
『綺麗』だなんて言われたのは初めてで

何かが込み上げてきた。

涙でも、喜びでも悲しみでもない

例えようのない、何かが。



「あの日から植木たちもガスやめたんだよ。すげぇと思った」

片手でハンドルを軽く握り、大ちゃんは前を向いたまま、柔らかく笑う。

「お前の力だよ。すげぇよな」



あの日─

植木くんの家に行ったことを、本当に後悔した。

こんなところにこなければって…

こんなところ、見たくなかったのにって。



嫌われたと思ったあの日。

ずっと後悔してた。

でもきっと正解だったんだと思えた。



「…つまりさ。たぶん、ずっと好きだったよ。気付くの遅すぎた」

本当に遅すぎだよ。

2年もかかるなんて。

「信じてくれる?」

優しく微笑み、左手で菜摘の頭を撫でる。

「信じらんないよ」

信じるよ。

大ちゃんがくれる言葉なら、全部受け止めるから。

もう、疑ったりはしないから。

だから、信じさせてね。

「そっか。ありがと」

これ以上は何も言わない。

嘘だとしても

本当でも

全て信じるから。

あなたが『本当』だと言うのなら

例えそれが嘘だとしても、私にとっては『本当』になる。

だから、安心してね。



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