“またね。”
夜の海。

辺りには街灯もなく、ライトを消すと真っ暗だった。

「おいで」

いつものように両手を広げて、大ちゃんはニッコリ微笑んだ。

大ちゃんの『おいで』も、あの頃から変わらずに大好き。

「おいで」

いつもなら飛び付いちゃうけど、繰り返したのは─

自分ばかり追うのに、少し疲れたからかな。

だって、くると思わなかったから。



「そういうとこ可愛い」



瞬時に菜摘の上にまたがった大ちゃんは、そのまま一気にシートを倒した。

驚いて唖然としている菜摘を見て、今度は悪戯に笑う。

…心臓が、止まっちゃいそうだった。



「大ちゃん、ずるいよ」



菜摘の前髪にそっと触れ、もう片方の手は右の頬を包む。



そして、そのまま─

長く、深いキスをした。



途中、大ちゃんが切なく囁いた一言を

菜摘は一生忘れない。



涙が溢れたのは─

本当に嬉しかったから。

死んでもいいと、本気で思ったから。

そして、なんて悲しい台詞なんだろうと思ったから。



例えそれが本心だとしても─

2人が結ばれることは、きっとないだろうと

確信したから。


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