“またね。”
気付くと涙が溢れていた。

2人は菜摘を見たまま何も言わない。

俯いて涙を隠した。



「菜摘…ごめん。俺やっぱバカだわ。ごめんね…」

必死に首を横に振る。

『ごめん』なんて言わないでよ。

菜摘、ちゃんとわかってたから。

全部、わかっていたから。

謝るのは菜摘の方だ。

「…呼び出したりしてごめんね。菜摘ちゃんだけ責めるのは間違ってた」

涙が止まらない。

泣きたくないのに。

「…許すから」

お願い。

その先を言わないで。

殴られたっていい。

許してほしいなんて思ってない。

最低だって、おかしいって

どんな言葉も受け入れるから。

だから─



何よりも恐れていた台詞を、言わないで。



「もう2度と、大輔と関わらないで」



それだけ言うと、真理恵さんは菜摘の家へと車を走らせた。

最後に一言

『さよなら』

そう、言い残して。



大ちゃんと目が合うことは

1度もなかった。
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