“またね。”
「あ…はあ、どうも」
人見知りの菜摘は、目を合わさずに軽く会釈だけ返す。
そういえば大輔には人見知りなんてしなかったっけ。
「んな緊張しないでよー!仲良くしてねー」
菜摘はノリが悪いんだろうか、馴れ馴れしい人がすごく苦手だ。
『ギャハハ』と下品な笑い方になんとなく苛つき、初めて寺田くんをしっかりと見る。
…ああ、この人か。
あの時はよく見てなかったけど、なんとなく覚えてる。
美香に負けないほどのピアスの数に、鼻にもピアスが1つ。
「寺ちゃん、臭いよー。吸っちゃダメって言ってるじゃん」
「ごめんごめん」
煙草を持つ手を軽く上げ、また下品に笑った。
寺田くんもハイテンション…っていうか、どこかおかしい。
目はうつろだし、語尾を伸ばす変な喋り方。
変な人。
正直、どちらかと言えば嫌いな部類だ。
……それに、今のふたりの会話。
『臭いから吸っちゃダメ』
煙草の話ならいいけど、美香と寺田くんが吸ってる煙草の銘柄は同じだし
何より喫煙者が『煙草臭いから吸うな』とはあまり言わないと思う。
すごく嫌な予感がした。