“またね。”
菜摘と大輔は長いことカラオケにいたから、場所を変えることになった。
すぐ近くのビル。
もう使われてないのにそんなに汚くもないせいか、中高生の溜まり場になっている。
たまにくる警備員の見回りさえうまく交わせば、なんでもやりたい放題の場所だ。
「俺らちょっと買い物してくるから、先行っててー」
寺田くんが大輔の肩に手を回す。
大輔は口元だけ笑ったまま、両手をポケットに入れてだらしなく立つだけ。
…大輔、作り笑いバレバレだよ。
「わかったあ。あとでね」
美香が返事をして、一旦別れる。
ビルに向かう途中、美香から寺田くんの話を少しだけ聞いた。
大輔と同じ高校に通ってたけど中退したこと。
おまけにこの街で有名なヤンキーグループらしい。
やっぱり菜摘の苦手なタイプ。
どうして大輔は一緒にいるんだろう。
どう見てもヤンキーではないだろうし、大輔の態度やふたりの雰囲気からして、仲がいいとは到底思えない。
それに……
大輔と寺田くんをふたりきりにさせるのが心配だった。
余計なお世話だってわかってるけど
嫌な予感が当たりませんようにって、叶うわけがないことを願った。