“またね。”

……目が、合った。

とても悲しそうな、寂しそうな瞳。



吸い込まれてしまいそうな……。



「戻ろっか。ほんとにごめんね」

菜摘の頭を軽く撫でて立ち上がる。

だらしなく歩く大輔のあとを追った。



この時1番おかしかったのは、菜摘だったのかもしれない。

悲しい瞳。
寂しい心。
力ない声。



寂しい目をした大輔を

“綺麗”だと、思ったんだ。



きっと、この日のことは忘れない。

初めて大輔の“弱さ”を見た日。



屋内へ戻ると、寺田くんは相変わらずの状態。

「…菜摘帰るわ」

落ち着いたと思ってたけど、寺田くんを見るとイライラしてしまう。

「え、もう帰るの?」

「うん、バイバイ」

「ちょ─」

何か言い掛けた美香を無視し、その場をあとにした。



美香は悪くないかもしれないけど

─『ガスの方がお利口かな』─

今はあの台詞を許せない。

だってそういう問題じゃないでしょ。


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