“またね。”
しばらくした頃、大輔の背中で前は全然見えないけど、美香と駿くんの話し声が遠ざかっていくことには気付いた。
「山岸さん」
ママチャリで2人乗りってけっこう至近距離になるから、ドキドキしっぱなし。
それをごまかすように、紺色のマフラーを軽く引く。
「何が『山岸さん』だよ」
「ちゃんと駿くんについてってる?」
遠ざかっていく…っていうか、もうほとんど聞こえない。
「ん?松ちゃん速すぎ。超張り切ってんじゃん」
信号に引っ掛かると、もう完全に聞こえなくなった。
「大輔がとろいんじゃん」
「俺はマイペースなんだよ。俺と2人っきりになんの嫌?」
マイペースっていうか、なんていうか。
大輔が振り向くから、目が合った。
「…嫌じゃないです」
嫌なわけないよ。
冗談でも『嫌』なんて言えない。
「だろー?素直でよろしい」
無邪気に笑って、菜摘の頭をくしゃくしゃと撫でた。
だって、ずっとこのままがいいって思ってる。
時間が止まってくれたらって、本気で願ってる。
ずっと2人がいいよ─