“またね。”

帰る準備を済ませて植木くんの部屋を出る。

途中まで一緒に行くことにした。

大ちゃんが自転車を押しながら、2人並んで歩く。

いつの間に降ったのか、少しだけ雪が積もっていた。

「菜摘、乗れば?」

「ううん。今日は歩きたい気分」

「なんだそれ。昨日歩いたじゃん」

少しでも長く一緒にいたいんだよ。

2人で歩ける距離は100メートル程度しかない。

そこまで行くと、お互いの家は逆方向だ。

たった数分だけど、その数分さえも大切にしたい。



…だって

次はいつ会えるのかわからないから。



大ちゃんの、ふいに見せる優しい笑顔が大好きで

笑ってほしくて

頭を撫でてほしくて

名前を呼んでほしくて─



たくさん、たくさん喋った。

精一杯、明るく振る舞った。



「お前ほんとよく喋るな」

「大ちゃんだってよく喋るよ」

自分のことは、やっぱり話してくれないけど。

「お前ほんと飽きないわ」

本当に─

そう思ってくれてる?

それなら、ずっと一緒にいてよ。



─この願いは、叶わないのかな。


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