指先で紡ぐ月影歌
日野宿といえば、土方や局長であった近藤の故郷、多摩郡の一角。
そして新選組の幹部として名前を列ねていたその多くの思い出の地。
鉄之助も此処に来るまでの道程で一度立ち寄ったことがある。
京都とは違う景色のその場所は、きっと穏やかだったのだろうと簡単に想像が出来た。
そこは全ての始まりの場所。
幼き日、ここらで悪さをしながら育ったのだと。
時には殴り合いの喧嘩をしながら。
時には悔しさに涙を流しながら。
竹刀を交え夢を語り合ったのだと、酒を流しながら珍しく上機嫌で話していた土方の姿が鉄之助の頭に鮮明に甦った。