指先で紡ぐ月影歌
何より、今言わずして後悔を蝦夷の地に残すなどあってはならないのだから。
「嫌です。覚悟は出来ております故、他の者に頼んでください」
だから連れていってください、と。そう一息で言い切った鉄之助。
土方に物申すなど有り得ぬこと。
それでもなけなしの勇気を振り絞りそう告げる。
知っていてほしいのだ。
鉄之助が、心の底から慕っていることを。
積み上げてきた時間は短いけれど、決して負けることのないその思いを。
鉄之助の言葉に一瞬黙り込んだ土方だったが、一呼吸置くとスッと脇にあった自らの日本刀に手を伸ばした。
そして細くそれを見つめた後、一気にその刃を抜く。