指先で紡ぐ月影歌



この人は死に場所を探しているんだと。

生き急いでいるんだと、そう言う人もいたけれど。

俺は決してそうじゃなかったと思ってる。


土方さんは、確かに"生きる"ことを選んでいた。


だって今この瞬間も、彼の瞳はその先の未来を映しているから。




『俺もお前もあいつらも。ちゃんと此処にいた。時代を生きてた』




"此処にいたんだ"


その言葉が。たったその一言が俺を救う。


そうだ。そうだよ。

俺たちは此処にいたじゃないか。


数えきれないくらい喧嘩して。

その何倍も笑い合った。

飯を食って、稽古して、酒を飲んで。

たくさんの夢を語り合った。


受けた傷の痛みも、背負ったはずの命も、全部全部覚えていたはずなのに。




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