指先で紡ぐ月影歌




俺は何年経ってもこの人には勝たせてもらえないらしい。

大往生してこの世を去るその瞬間まで、俺はこの人には敵わないんだろう。


だってきっと気づいてる。

今俺が泣きそうなくらい嬉しいことに。


夢じゃないかと不安になるなら、その手で刻めと。

この人は俺にまだ"隊務"とやらを残しておいてくれたらしい。


副長命令だ、なんて。

そんならしくもねぇ言葉で。


本当、泣いちまいそうだよ。

悔しいから意地でも泣いてやらないけど。


なぁ、もしかして知ってたのか?


俺が近藤さんの処刑場に行ったこと。

左之助とも袂を別れたこと。

総司の最後を看取ってやれなかった悔しさも。

平助や山南さん、芹沢さんのことを引きずっていたことも。




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