指先で紡ぐ月影歌




本当は俺がまだ、生きていたいことも。


全部全部、知ってたのか?




『あぁ、そうだ。ついでに泣き虫なあいつの様子も見てきてやってくれねぇか』




そんな今にも泣き出しそうな俺の前で土方さんは思い出したようにそう言う。

その瞬間頭に浮かんだのは彼の後ろをついて回っていた小さな隊士の姿だった。




『日野まで頑張ってくれたみてぇだからよ。隊務完了の報告、俺の代わりに受けておいてくれ』



そういった土方さんの顔は親のような兄のような。

日野のあの頃を思い出す。


そうか。その人は生かしておきたいんだ。


俺たちが背負った誇りの意味を。

決して、なかったことにはしたくないんだ。


本当は生きていたかったんだろう。

誰よりも誠を胸に。




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