指先で紡ぐ月影歌
鉄之助は極内密に函館を脱出したのである。
鉄之助は知らないが誰にも気付かれぬよう、土方は自らが倒れる前日まで彼をいるものとして扱っていた。
まるで何かを悟っていたかのように。
鉄之助もこちらに着いてからは美濃にいるであろう兄にすら手紙などは出していない。
当面政治情勢が安定するまでは目立つことはしない方がいいというのが佐藤家と鉄之助一致の考えだった。
それ故に自身を訪れるものなどいるはずがないと思っている鉄之助。
一体誰が…そう思ったときだった。
「よう!市村ー!元気かー?」
ひょっこりと彦五郎の後ろから顔を出したその人。
その見覚えのある顔に鉄之助は大きく目を見開いた。
「な、永倉組長!?」