指先で紡ぐ月影歌




「では、あとは二人でごゆっくり」




二人を縁側へ案内しお茶の用意をした後、彦五郎はそう言ってその場を後にする。


そんな彼の後ろ姿に向かって"ありがとうございます彦さん!"と景気よく笑う新八を、鉄之助は信じられないといった顔で見つめていた。

まるで幽霊でも見ているような表情だ。


そんな鉄之助の様子に気付いたのだろう。鉄之助の方に顔を向け、先程とは打って変わって大人びた表情を浮かべた新八。




「…随分久しぶりだな」


「は、い。お久しぶり、です」




正直なところ、鉄之助はもう一度この人に会えるとは思っていなかった。


土方と彼が袂を別れたとき、あれが今生の別れだと思っていたのだ。




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