指先で紡ぐ月影歌
「…はい」
その鉄之助の返事に新八は満足そうに笑った。
「死に急ぐんじゃねぇぞ。あの人の分までたくさん世界を、未来を見ろ」
そういえばポロリと溢れる鉄之助の涙。
「…はいっ、俺…生きますっ」
たくさんの思いが詰まっているであろうその涙に新八の胸が熱くなる。
そんな自分を誤魔化すように、ガシガシと両手で鉄之助の頭を撫でた。
「御務め御苦労」
その言葉に崩れるように泣き出した鉄之助。
その体を抱き留めながら、新八は青い空を仰いだ。
(俺がこの言葉をもらうのはもう少し先だな)
そう思いながら仰いだ空の向こうで、黒い着物のよく似合うあの人が片手を上げて笑った気がした。
後日談
(誠を背負って)
(俺たちは生きる)