指先で紡ぐ月影歌
浮かんだ少し歪な三日月は鉄之助の思いの全てだった。
実際の兄よりも兄のようであった男。
此処まで、見放すことなく傍で戦わせてくれた誇り高き我が師。
彼の誇りや信念に憧れてここまで来た。
彼の生きざまを守りたくてここまで来たのだ。
今、彼の思いを踏みにじるようなことはしたくない。
己がこの任務を遂げることで、彼の願いが叶うなら。
望んでいた"未来"を繋げるのなら。
鉄之助は再び深く頷いた。
「…鉄。この部屋を出たら日野に着くまでは絶対に泣くな。任務を最後まで遂げるまでは泣くことは許さねぇ。いいな?────────俺との最後の約束だ」
それが、二人が交わした最後の会話。