指先で紡ぐ月影歌
彦五郎が土方が京から連れてきた小さな小姓を見るのはこれが二度目のこと。
一度目は彼らが北へ向かう前、此処に立ち寄ったときのことだった。
まだ幼くあどけない表情をしていた少年がいたことを思い出す。
目の前でぐっと唇を噛み締める鉄之助を見ながら、あの頃に比べ見違えるほど大人になったものだと彦五郎は思った。
同時に土方歳三という男はそれほど凄い男になったのか、と。
悪戯ばかりして周りを困らせていた悪餓鬼は、いつの間にか一人の少年が命を懸けるまでの男になったのだ。
世間が何と言おうとも、それはとても誇らしいことに思う。