指先で紡ぐ月影歌
通り名とかそんなんじゃない。
誰かがそう呼び名をつけたわけでもない。
あの人が自らの手で浸透させていったことを。
きっと、気付いていないだろう。
それくらい自然に、まるで雨が降って土が湿るようにその名を吸い込ませていった。
だからその"鬼"の名の切っ掛けを知るものは少ない。
いや、もしかしたらいないかもしれない。
俺以外には。
俺から見た土方歳三という男は、根っからのお人好しだ。
何だかんだと言っては年下の総司の面倒を見たり、近藤さんを窘めたり伸ばしたり。
他の人が背負うはずの罪悪感や痛みを、平気で肩代わりしちまうような人。