指先で紡ぐ月影歌
浪士組として京に入り、此処に残ることを決めてから暫く経ったある夜深く。
ふと珍しく空気を切る音で目が覚めた俺。
いつになく目が冴えて、その音に誘われるように部屋の外に出た。
侵入者かもしれないという警戒心はない。
わかっていたんだ。
その音が、よく知るあの人の少し癖のある木刀を振る音だと。
振り下ろす間合いや足の引き方。
その音全てがあの人以外あり得ない。
少し歩けば、見えたのは予想通り庭で一人素振りを繰り返す土方さんの姿。
普通のものより重く太い木刀を振り下ろすその後ろ姿に、小さな違和感を感じた。
…いや、違う。
本当はもう随分と前から、彼の姿に違和感を感じ始めていたんだ。