指先で紡ぐ月影歌




そんな思いで問い掛ければ、土方さんは無言のまますっと視線を逸らす。


それはこの人の昔から変わらない肯定の返事。

痛いところを突かれると目を逸らすのは直らない癖の一つだ。


最もいつもはこの後上手いこと躱されてしまうのだけれど。

今回はそうはいかない。




(やっぱりな…)




ここのところの違和感はそのせいだったのかと理解する。


きっと最後のお達しを貰ってからも一人で悩んでいたんだろう。

この人が、即決なんて出来るわけがない。


元々武士じゃないんだ。

仲間討ち、なんて。向いていないにも程がある。


土方さんも近藤さんもそういう世界には縁のない場所にいた。

そんな世界に触れなくていいところが、この人たちの世界だった。




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