指先で紡ぐ月影歌
<鬼の始まり>
「甘さは捨てねぇとなんねぇな」
その言葉とともに、サァァっと緩い風が二人の間を吹き抜ける。
淀むことのない言葉は彼の決意を物語って。
決めたのだ。この人は進むべき道を。
空の月は雲に隠れることなく、相も変わらずそこで白い光を放っていた。
(土方さんみてぇ)
そんな月を見上げて、ぼんやりとそう思う。
月はこの人に似ていると。
暗い闇の中でも決して己を見失うことなくそこに居続ける姿。
迷うことのないよう道を照らし出す光。
しかし決して自ら光を放つことはない。
まるで太陽の影のような存在。
それは誰も知らないところで全てを背負い込もうとする。
孤高であろうとするこの人に似ていた。