指先で紡ぐ月影歌




そしてそんな自分の良さも悪さも、この人は全部"鬼"の言葉の後ろに隠しちまうつもりなんだろう。

誰にも知られないよう、何重にも重ねた鬼の鎧をその身に纏うのだろう。


その下の姿を思い出せなくするくらいに。


きっと俺よりもたくさんの決意が必要だったはずだ。

優しすぎるこの人には。


鬼として生きるためには捨てなくちゃならないものだってある。

普通の幸せなんて望めない。

未来だって保証されない。


それでもこの人は選んだんだ。


此処で生きていく道を。進むべき方向を。


だから、もう後戻りは出来ない。

進むしか、ない。




(それなら)




それなら、俺に出来ることは決まってる。




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