指先で紡ぐ月影歌
いつぶりだろう。彼に左之と呼ばれたのは。
昔は大声で名前を呼ばれたものだけど。
京に出てきてからはめっきりなかったような気がする。
そしてもしかしたら、これが最後なのかもしれねぇ。
だから深く胸の奥にしまっておくことにしよう。
この人の決意を忘れないために。
闇に浮かぶ細く欠けた月が、微笑みを浮かべるように輝いて。
小さな星はそれを見守るように崇めるように瞬いていた。
「左之。俺は鬼になる。振り返りはしねぇ」
空を見上げたまま改めて告げられた言葉は、破れぬ誓いのように。
月明かりに照らされ見えた横顔。
その頬を濡らす涙には気付かないふりをして、ただ同じように月を仰いだ。