指先で紡ぐ月影歌




いつぶりだろう。彼に左之と呼ばれたのは。


昔は大声で名前を呼ばれたものだけど。

京に出てきてからはめっきりなかったような気がする。


そしてもしかしたら、これが最後なのかもしれねぇ。


だから深く胸の奥にしまっておくことにしよう。

この人の決意を忘れないために。


闇に浮かぶ細く欠けた月が、微笑みを浮かべるように輝いて。

小さな星はそれを見守るように崇めるように瞬いていた。




「左之。俺は鬼になる。振り返りはしねぇ」




空を見上げたまま改めて告げられた言葉は、破れぬ誓いのように。


月明かりに照らされ見えた横顔。


その頬を濡らす涙には気付かないふりをして、ただ同じように月を仰いだ。




< 73 / 239 >

この作品をシェア

pagetop