指先で紡ぐ月影歌
彦五郎への手紙には"使の者の身の上頼み上げ候"と書き記して。
(頼むぜ、義兄さん)
もし最後の願いが叶うなら、どうか彼が生きて無事に蝦夷から出られるように。
どうか、彼が自分と同じ道を歩まぬように。
そんな願いを込めながら。
(すまねぇな…鉄)
同年四月十五日。
土方の思いを託された男は函館を脱出。
その命のままに遠く日野の地へと向かった。
全てを託された男の名は市村鉄之助<イチムラ テツノスケ>。
この時まだ齢十六の少年だったという。