指先で紡ぐ月影歌
近藤さんが道場主をしていた道場・試衛館。
そこで指導しながらの腕試し、なんて言えば聞こえはいいけれど。
その実、所詮ただ飯食いの居候で。
脱藩者で帰るところのなかった俺。
勿論剣以外に取り柄はねぇから稼ぐあても大してない。精々出稽古くらいなもんだ。
商いなんかしたこともねぇしな。
それでも、その腕があればいいじゃないかとそんな俺を当たり前のように受け入れてくれた人たち。
いや、まぁただ飯食ってたのは俺だけじゃなかったんだけどよ。
皆して金はないし、大層なものを食べられるわけじゃなかった。
それでもここの人は暖かくて。
帰る場所の有り難みを教えてくれた場所でもあったんだ。