ある男女の恋愛事情






伊吹くんから漂う柔軟剤の香りがあたしの鼻腔をくすぐる。


伊吹くんの…匂い。


「っ」


何ときめいてるんだ自分。


忘れちゃ駄目、

あの時言われた言葉を。



〝だからもう好きとか
そういうの二度と言わないで〟



――ズキン。


うん、分かってるよ。

もう二度と言わないよ。



だから、好きでも告白なんてしないし
あからさまに態度にださない。



「四つ矢やろーぜ」


「え。あたしアレ苦手」


「だからやるんだよ」




ガチャリ、音がして鍵が開く。

伊吹くんは扉を引くと、あたしに先に入るよう手でシッシと払った。


乱暴な素振りなのに
ちゃっかり紳士的だから、


……困る。



そそくさと中に入り電気を付け、お互い自分の弓や矢の準備に取り掛かる。


聞こえるのは時計の針の音と
お互いの準備をする動作の音だけ。


校内の一番端にあるため
野球部の声すらここには届かない。






< 12 / 36 >

この作品をシェア

pagetop