ある男女の恋愛事情
準備をしながらも横目で
伊吹くんの袴姿を盗み見する。
背が高いからすごく
袴姿が様になっている。
伏し目がちな表情。
少し目にかかってる前髪。
昔の面影はあっても、伊吹くんはもう昔の伊吹くんじゃない。
自分の準備が終わり
的もつけ終えた伊吹くんは
「よし。浅野サナこい」
と、言って手招きした。
「え」
「見てやるよ」
「っ」
「ちょっと試しに射ってみ」
伊吹くんにそう言われ
コクン、と首を縦に動かす。
ス、ス―…と足を滑らせ位置につく。
両足を踏み開いてここで一呼吸。
取懸け、手の内、物見と
一定の動作で進めていく。
その間、無音が続く。
集中力をより一層高め打ち起す。
打起こした位置から弓を押し弦を引いて
両拳を左右に開きながら引き下ろす。
「口割り低い」
「―――…っ」