ある男女の恋愛事情
弓をもう少し上げ、会に入る。
的は狙わず、動作と集中に心がける。
―――スパーンッ。
―――パンッ!!
矢が放たれ、的に当たる。
残心をゆっくり、済ませると
辺りは再び静寂に包まれた。
「お前の動作すげーよな」
その静寂を破ったのは
伊吹くんの声だった。
「え、」
「目の保養になるわ」
「っ…」
伊吹くんは少しだけ口角を上げた。
でもここはこうした方がいいとか、矢を放つのが少し早すぎるとか、ちゃんと的確なアドバイスもしてくれた。
「あと、もっと胸張れ。
そしたらもっと凛とするから」
「ぅ、うん」
「でも、すごく良かった。
頭撫でなでしてやるよ」
「わ、いいって」
撫でなでというより、
グシャグシャされた。
あたしはなるべく平然とした態度で髪を整える。…ドキドキする。目の前の伊吹くんに、最高にドキドキする。
そんなこと、伊吹くんは
知りもしないんだろうな。