ある男女の恋愛事情
だから俺はその状況に
甘えて覚えてないフリをしたんだ。
いつか言うタイミンが来たら言おうと。
そのタイミングは昨日のはずだった。
なのに浅野のあの切なそうな、驚いたような顔を見たら何も言えなくて。
結局濁した。
帰り道で言えばいい。
なんて後回しにしたツケが回ったんだ。
もうどうしていいか分かんねえ――。
でも俺がまたここで濁したら、俺と浅野の間にある溝はずっと埋まらない。
「夏ー?
お前朝からボーッと
してっけどどした?」
「あー…うん、まあ」
「なんだよ、まあ。
言いたくねえならいいけど」
友人の原田に言われて初めて、俺は朝からボーッとしていたことに気付いた。
機械的動作のように、口にコロッケパンを運びもそもそ噛む。