ある男女の恋愛事情
俺の発言一つで浅野は噂の標的になる。
迂闊な言葉を言えば、あいつは
もっと傷つきまた泣くんだろう。
…俺の見えないところで。
「別に浅野のことは好きじゃない」
言葉は、いつの間にか出ていた。
本能的か、自然にか。
もっと違う言い方があったはずなのに。
究極に焦っていた俺は
そんな言い方しか出来なかった。
開いていた溝が
さらに深まった気がした。
言葉に出した瞬間
胸がひどくえぐられた。
なんで俺が傷ついてんだ。
―――バサッ。
「、」
「え、なにっ」
その時、扉の向こうで
何かが落ちる音が聞こえた。
瞬間、頭は一気に血の気を引く。
キィ、と音がして扉が開く。
入ってきたのは…浅野だった。