ある男女の恋愛事情
「あたしも、もう帰る。
今日部活ないしねっ」
「浅野っ」
震えそうで壊れそうな笑顔のまま、数学準備室を出て行った浅野の後を追いかけた。
聞いてたんだ。
でも、聞いてない振りをしたんだ。
あの時、必死に平静を保とうとしていた浅野は何を思ってた?
なにを感じてた?
「待てって、話聞け、」
「や、だっ」
掴んだ腕を振り払った浅野は、背中を向けたままその場にしゃがみ込んだ。
震える肩が、小さく見える。
俺はゆっくり浅野の正面にいくと、腰を下ろししゃがんだ。
浅野はそれを拒むように手で顔を覆い隠す。ごめん、違うんだ、ごめん、浅野。
「浅野…」
「いや、やだっ…」