ある男女の恋愛事情
「サナ」
「、」
すると突然下の名前で呼ばれた。
初めてのことだけに耳がくすぐったい。
スルリと滑るように
骨張った指が頬に触れる。
「え、え」
泳ぐ目が伊吹くんをとらえる。
真剣な表情の彼と目が合う。
ゆっくりと迫り来る顔に
ぎゅっと目を閉じた瞬間
ーーー唇が重なり合う。
僅かに触れ合うだけのキス。
でも私にとってはこれが
人生で初めてのキスだった。
「〜〜〜っ」
「何その顔。
癖になりそうなんだけど」
私の表情を見て、妖艶に笑う伊吹くんは今までに見たことのない伊吹くんで、
そんな彼の甘い一面に
心の芯まで堕ちていく。
「最初に言っとくけど
俺好きな子には容赦しないから」
「え゛、何その報告。
それを聞いたあたしはどうすれば…」
「はにかんどけばいいと思います」
「いや早急に無理」
「ぶはっ」
可笑しそうに笑う君がいて
それを見て笑うあたしがいる。