ある男女の恋愛事情
あの時の二人の笑顔は、完全に裏切る気満々の安い笑顔だった。
その日の夜は嫌な予感がして中々寝付けなくて。
だから次の日寝坊して
ギリギリ学校に着くと
『おい、浅野が来たぞ!』
『なあ、浅野って
夏が好きだったの!?』
『告白してないんだって?
なんなら今日しちゃえよ!』
『サナ頑張れーっ』
案の定、黒板には
定番の相々傘が書かれていた。
愛ちゃんと穂奈美ちゃんを探すと、二人は他の女子と一緒になって笑っていた。
…信じてたのに。
急に、涙が押し寄せてくる。
でもまだ希望を捨てた訳ではなかった。
伊吹くんはまだ来てない。
でも伊吹くんならこういう幼稚な手にものらないだろう。
だって彼は大人だから。
何も言わず黒板を消すか
一言叱ってくれるだろう。
そうしたら場の空気も冷めて
一気に丸く収まるはず。
あたしはそれを信じて、泣くまいと歯を食いしばっていた。
するとそこに。
『夏が来た!』