ある男女の恋愛事情
伊吹くんの登場に
教室の歓声はピークに。
黒いランドセルを片方の肩にかけた伊吹くんは、黙って黒板を見つめていた。
『おい、浅野早く告っちゃえよ!』
『ほら、浅野は
誰が好きなんだっけー?』
『ちょっと、男子やめなよー(笑)』
「は、くだらな」
一瞬にして、教室が
冷たい空気に張りつめられた。
伊吹くんはその場にランドセルを
放り投げると、黒板消しを掴み
淡々とそれを消し始める。
あたしもそれに合わせて黒板消しを掴み一緒に消しかかる
…はずだったんだけど。
「いいから」
「え…」
「こういうの迷惑だから。
やめてくんない」
「っ」
「だからもう好きとか
そういうの二度と言わないで」
あたしを一切見ずに彼はそう言った。
何を期待していたんだろう。
何を彼に頼っていたんだろう。
急にこの場にいる
自分が恥ずかしくなってきた。
顔が火傷したみたいに熱い。