ある男女の恋愛事情
羞恥心とプライドでその場で泣くことはしなかったけれど、後でこっそりトイレの中で泣いた。
友達はみんなあたしに謝ってくれた。
でも、全然気持ちは晴れなくて。
伊吹くんは女子の天敵になり
男子は伊吹くんを避けた。
そして間もなく、伊吹くんは
家の都合で、と…転校していった。
これが小6の悲劇のすべてだ。
そして、高校であたしは
もう一度伊吹くんと再会した。
一目見て伊吹くんだと分かったよ。
ふわふわな黒髪。
ちょうどいい大きさの瞳。
綺麗な筋の通った鼻。
薄い唇。
長い手足に華奢な身体。
容姿はあの頃の面影を残していた。
かっこいいというより、綺麗な人。
見惚れたのは言うまでもない。
ときめいたのは事実。
でも絶対告白なんてしない。
二度と、しない。
少女漫画とかだったら普通ここで「よーし見てなさいよ! 綺麗になって見返してやるんだから!」と、主人公が自分磨きを始めたりもするけど、
現実は、そんなんもなく
ただただあの日の出来事を
胸の内にしまい込んでいるだけ。
幸いか、不幸にもか。
向こうは綺麗さっぱりあたしのことを
忘れてしまっていた。
まあ、三年も経てばそりゃ忘れるか。
でも、その程度の事だったんだと思うとひどく悔しかった。